元禄赤穂(げんろくあこう)事件を題材とした「忠臣蔵(ちゅうしんぐら)」は、今なおドラマや映画、舞台、小説などにたびたび取り上げられるほど人気の高い物語です。江戸城内での赤穂藩主・浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)による吉良上野介(きらこうずけのすけ)への刃傷沙汰にはじまり、赤穂の遺臣たちが起こした吉良邸への討入りという一連の出来事は、浄瑠璃や歌舞伎、文学などにおいて、フィクションを織り交ぜながら繰り返し演じられ、語られてきました。とくに明治から大正・昭和初期にかけて忠君愛国の精神につながるものとして、義士たちの忠誠が賛美されることとなりました。その流れを受け、大正10年(1921)に出版された《義士大観(ぎしたいかん)》 (義士会出版部刊)は、赤穂事件の史実に従い、当時の様々な画派や団体で活躍していた画家ら82名によって手掛けられた豪華大型木版画集です。
賛文と木版多色摺による絵で構成された本作は、史論家福本日南(ふくもとにちなん)による解説が付属されており、政財界をはじめ、文学、芸術、教育など様々な分野において活躍する著名人127名による賛も寄せられています。絵においては、富岡鉄斎(とみおかてっさい)、小堀鞆音(こぼりともと)、竹内栖鳳(たけうちせいわほう)、下村観山(しもむらかんざん)、上村松園(うえむらしょうえん)、松岡映丘(まつおかえいきゅう)、島成園(しませいえん)、伊東深水(いとうしんすい)など、東西に存在する画壇や団体に所属している画家ら82名が一人ひと場面ずつ描いています。画家それぞれの筆づかいや色の賦(ふ)し方など、細かな違いも見事に紙面上に再現され、木版の持つ味わいある柔らかさが観る者の心に響く抒情性に溢れた作品となっています。
本展では、《義士大観》に描かれた82の場面から、誰もが知る場面や印象に残る場面など54点を選び、前期と後期に分け27点ずつご紹介します。近代によみがえった忠臣蔵の世界と、当代一流画家たちによる華やかな競演をどうぞお楽しみください。