田口貴久氏の造形
グレーを基調として幾何形態に主眼を置いたかと思えば、朱赤が画面を占める情感的な作品も手掛ける。田口氏の造形は直線と曲線、線と面など対極する最小限の要素を効果的に組み合わせ、張りのある強靭な画面を構築している。
モチーフは机やイス、ポットや瓶、果物、バイオリンなど、オーソドックスな静物であり、平明で構成に主眼を置いた画法は愛知県立芸術大学大学院時代に学んだ島田章三や笠井誠一の影響が伺える。その造形理論はブレることなく、その後はコンクールやグループ展を中心に精力的な発表活動を続けてきた。
学生時代は人物と風景を同列に組み合わせてもいるが、その後、より洗練された構成となりセザンヌの造形理論や、モランディやニコラ・ド・スタールを髣髴とさせる、油絵具の特性を生かした画面を構築してきた。
近年は、色彩や形態に“しなやかさ”も加わり、より深奥な世界が感じられるよ
うになった。氏の新たな世界と出会えることを期待している。森田靖久(豊川市桜ヶ丘ミュージアム学芸員)