赤塚一三展に寄せて
「風景が身体にしみ込むまでは描けない」と赤塚さんは言う。風景にしろ静物にしろ、無数のデッサンと弛まぬ思考を重ね、対象はゆっくり変化する。フォルムも色彩も画家の内部でみがかれ、純化され、やがて静かな秩序を生み出す。それは即興的な表現ではなし得ぬ、静謐な安定と馥郁とした余韻が広がる世界だ。
もともと知的な構成のなかに独自の叙情を漂わせる作品で知られた。それが、1995年から3年におよぶ滞仏生活を経て、構成と色彩がさらに洗練された。フォルムは自律し緊密な構成が生まれ、色彩は光を孕んで内発的な輝きをみせる。これにより、風景も静物もリアリティーを確保しながら、ある種の象徴性をおびる。不断の造形思考と、新鮮な詩的感動の幸福な一致だ。近年、あまり出会うことの少なくなった、豊かな造形詩の世界である。土方明司(美術評論家・平塚市美術館館長代理)