「あざみ野コンテンポラリー」シリーズ展第8回として、渡辺豪の個展を開催します。渡辺は、2013年に第24回五島記念文化賞美術新人賞を受賞後、約1年間フィンランドでの研修を行いました。本展は、五島記念文化賞美術新人賞研修帰国記念展としてフィンランド(ヘルシンキ、ロヴァニエミ)滞在の経験をもとに制作された最新の映像インスタレーションを中心に展示します。
渡辺は、1975年兵庫県に生まれ、愛知県立芸術大学で油絵を学びました。2002年から今日にいたるまで一貫してデジタル技術を駆使した映像と写真による作品を制作・発表し、国内外を問わない活躍をみせています。
渡辺は近年、〈光〉への興味を深めながら作品制作を行ってきました。高緯度地域特有の夏期に陽が沈まない〈白夜〉、そして冬期に陽がほとんど昇らなくなる〈極夜〉の現象が1年を通じて見られるフィンランドでの〈光〉の体験は、本展出品作の底流をなすテーマとなっています。それは、日本での生活で体験する〈光〉との関係とは異なる未知の体験を促し、そこから身体的、精神的な〈ズレ〉を感知した作家は、文字通り「ディスロケーション/dislocation(ずれること;脱臼、転位、断層などの意味を持つ)」を着想しました。
渡辺による精緻な映像の動きは、極めて緩慢で静止画のような印象ですが、時間をかけて注視すると少しずつ変化する画面は、まるで穏やかな日常を再現しているかのようです。架空の日常風景がリアルな様相を帯びることで、誰のものでもない、あるいは誰のものでもある風景へと転位します。そして、日常の風景はそれを享受する人の認識によって変現するものであることを知らしめます。仮想の風景が強いリアリティをもって迫ってくる渡辺豪の世界をご堪能いただければ幸いです。