第二次世界大戰中の1943(昭和18)年、海軍報道班員として従軍し、南方―東南アジアに向かった日本画家・伊東深水(1898-1972)は、当地で目にした風物に深く感銘を受け、スケッチを制作しました。4か月ほどの滞在で制作されたスケッチは四百数十点にものぼったと言います。
膨大なスケッチのうち、現在270点ほどが市川市の所蔵になり、《南方風俗スケッチ》と呼ばれています。
伊東深水に限らず、従軍画家として南方に渡った画家たちは、目にした光景に創作意欲を刺激され、制作を行っています。伊東深水従軍の前年にシンガポールに渡った洋画家・中村研一(1895-1967)も、そうした画家の一人でした。当館所蔵の《宿泊先(昭南のわが宿)》 (1942)や《海の見える庭》(1943)は、おそらくこの際目にした光景に基づいています。
本展示では、日本占領下の東南アジア諸地域が日本人画家達からどのような視線を向けられていたのか、その一端を市川市所蔵、伊東深水《南方風俗スケッチ》を展示することで概観します。併せて、当館所蔵の中村研一による南方を描いた作品も出品します。近代の日本画・洋画双方の中に現れる多面的な「南方」の姿をご覧ください。