「都市生活の中で見た、一瞬の見間違い、夢、記憶の断片は体の中でふやけ、 決して触れられない“永遠のかゆみ”となる。届かない痒みを引っ掻くようにドローイングを続ける。」
----- 森 千裕
独自の観察を通じて見つけた日常の断片を構成要素として作品に織り交ぜ、不穏さと美しさが共存する不思議な世界をつくりあげる森千裕(1978-)。都市生活で目にする看板の文字や商標、子どもの頃に夢中で描いた絵、人との会話の中で放たれる思いがけない言葉のフレーズなど、彼女は自身の記憶や心を揺さぶるものたちを、作品の中で冗談を含んで表現します。制度的なものからとりとめのないものまでが脈絡なく結びついた、落書きのような絵画やユニークな立体作品には、理性の統制からはみ出していく計り知れない想像力と社会の常識やルールを自由に組み替えようとする力を感じ取ることができるでしょう。
本展覧会は、森千裕の絵画、ドローイング、写真、立体、映像などの作品を新旧交えて紹介する、美術館で初めての個展です。また今回は、「今はないもの」をテーマに森が行ったワークショップや授業で生まれた子どもたちの作品の一部を、作家が自身の作品とともにインスタレーションによって展示します。“omoide in my head”と名付けられた本展は、森千裕と子どもたちの頭の中の世界が交じり合った、謎めく展示空間が立ち上がります。