東京藝術大学教授を長らく務め、後に文化勲章を受章した彫刻家・淀井敏夫(1911-2005)を父に、帝展に入選した画家・茂子を母に、東京・世田谷に生を受けた淀井彩子(1943-)は、母と同じ画家を志し東京藝術大学に進みます。東京藝術大学大学院油画専攻を修了し、その後フランス政府給費留学生として、パリ国立美術学校に2年間留学しました。
淀井彩子はパリ滞在中にエジプトを訪れ、強烈な光が降り注ぐ南国の大地に強い衝撃を受けました。太古から続くナイル川の豊富な水量が肥沃な土壌を生み、エジプト文明が築かれたことを目の当たりにして、鮮やかな色面を組み合わせた幾何学的な構成による抽象画を描くようになります。
学生時代から淀井彩子は古墳時代に描かれた装飾古墳に魅せられて熊本各地の古墳群を見て回り、一方でフランスやスペインにある旧石器時代の洞窟遺跡にも興味を抱き、留学中やその後も何度か訪れ、数万年前に描かれた壁画を調査しました。古代の人々がどのような目的を持って壁画を描いたのか、芸術的な表現が生まれた瞬間とは何かという根源的な問題に思いを馳せ、自問し続けることを制作の糧にしています。
近年はアトリエが建つ武蔵野台地で見つけた土器片や庭に育つ胡桃、芭蕉をモチーフにした作品、エジプトの風景を自由にアレンジした作品などを発表しています。
本展は当館の収蔵品に新規に加わった淀井彩子の油彩や版画に、具象彫刻界に新たな局面をひらいた父・淀井敏夫の彫刻、素描を併せて展示し、世田谷が育んだ代表的な芸術一家・淀井家の活動の一端を紹介するものです。
また、小コーナーでは陶芸家・濱田庄司の四男で、工芸作家・濱田能生(1944-2011)の透明感溢れる吹きガラスの花瓶や水指、茶碗などを初公開いたします。