1960年代後半に一世を風靡したオプ・アートを見直す展覧会を開催します。ポップ・アートと聞き間違えそうなこの名称は、オプティカル・アート(Optical Art)の略称で、「光学的/視覚的な美術」という意味を持っています。もちろんすべての美術は視覚的なものなのですが、オプ・アートは、幾何学的図形や波状パターンを繰り返し描くことなどによって錯覚や幻惑などの生理的効果を起こさせ、純粋に網膜としての視覚に訴えかけるものなのです。
1965年、ニューヨーク近代美術館の「応答する眼」展から一般的となったオプ・アートは、サイケデリック・ムーブメントとも連動しながら、アートの領域を飛び越えて、ファッションや映画、ロックコンサートの視覚効果などに用いられましたが、数年のうちに終息し、その後は児戯に等しい表面的な試みとして美術史的には軽視されてきました。しかし、翻ってみると、建築や家具、ファッションなどの分野への影響には無視できない大きなものがありますし、現在のコンピューター・グラフィックスやアニメーション、クラブシーンなどではかつてのオプ・アートの実験の成果がそのまま生かされていると言えましょう。
今回の展覧会では、オプ・アートを体系的に収集する北海道立近代美術館のコレクションから、ヴィクトル・ヴァザルリやブリジット・ライリーなどの主要作家5名の44点を紹介します。この機会に美術の難解さを忘れ、視ることの喜びと不思議さ、自分自身が眼球そのものとなる快感に、ぜひ浸ってみてください。