文字をしたためること、そこから生み出される「書」は、文字そのものの意味と造形を兼ねた、特有の芸術性が認められます。一文字一文字に祈りが込められ写された装飾経、連綿と記された仮名に流麗な美しさが見られる古筆切、個性的な文字や内容に人柄が表れる墨蹟や書状の数々、目的や筆者は異なりますが、何れも他者に「伝えること」が強く意識されており、文字の形、さらにはそれをしたためる料紙に創意工夫が凝らされ、筆者の美意識を味わうことが出来ます。
こうして生み出された「書」の美しさは人々を魅了し、現在に伝えられてきました。その多くが本来の目的を離れ、内容だけでなく筆者や伝来に価値が見出され、たとえ一部分であっても鑑賞に適するよう表装されています。あるいは書状のように、その時代の様相を具体的に知る手がかり、史料としても重要です。当館に所蔵される双柏文庫は、日本中世史研究者・中村直勝(なかむらなおかつ)氏が収集した古文書コレクションであり、中世・近世の公家や武家・茶人の書状が充実しています。
展覧会では館蔵品に特別出陳品を交え、「書」に見られる多様な美意識に迫ります。
個々の作品が持つ「鑑賞」「愛玩」の歴史にも思いをはせつつ、御覧頂けましたら幸いです。