代表的な吉祥文の一つである桃は、中国では三千年に一度実をつけ、食べると寿命が延びるといわれていました。桃源郷にも登場する桃は、不老長寿の象徴でした。同様に、花王、花押の意味から発展し、富貴の象徴とされるようになった牡丹など、様々なメッセージ性を含んだ文様のうつわが作られるようになります。吉祥、祥瑞に関わる題材の根本には、富貴、健康、幸福、繁栄を願う気持ちがあります。それをうつわへと写しだし、深く結びつけたものが鍋島焼と古伊万里金襴手であるといえます。その意匠は現在の私達の感性と隔たりのない美しさを醸し出し、江戸時代に生きた人々の生活、流行、願いを現在に伝える存在の一つとなっています。
今展示では、日本最高の磁器ともいえる鍋島焼の吉祥文。それと並行して、町人文化が咲き誇った時代に呼応するように技術と感性の頂点を究めた、古伊万里金襴手様式の慶び溢れる意匠を題材とします。栄華と繁栄の夢を託した華麗なうつわの数々を、文様紹介をまじえ展示いたします。
18世紀後半に入ると、成熟した社会のもと、それまで高級品であった伊万里焼が一般階層にまで普及するようになります。第3展示室では、江戸後期の作品を中心に集め、庶民が幸せを願うさまを豊かな表現力で描いた、親しみやすく、おもしろさ溢れる古伊万里を展示いたします。
うつわに描かれた文様をひもとき、江戸時代に生きた人々の平安、慶びを願う心をお楽しみください。