速水史朗は1927年、香川県多度津町に生まれた彫刻家で、現在も故郷を制作の場に選び、精力的な制作活動に取り組んでいる。
速水の作品は、日本瓦の制作技法を用いた独自の黒陶と石彫がよく知られ、それらは地元香川の風土を思わせるかのような柔らかい曲面による有機的な形態が特徴として見られる。また近年では、滋賀県・信楽の焼締による作品を制作するなど、多彩な素材への取り組みが続いている。
1973年第1回彫刻の森美術館大賞展優秀賞をはじめ、野外彫刻展を中心に多数の受賞歴があり、また全国各地の公共的なスペースにモニュメントが設置されているほか、海外でも米・ワシントン、ハーシュホーン美術館・彫刻庭園、ニューヨークのエヴァーソン美術館などにも作品が収蔵され、国際的な評価を得てもいる。
「作品は決して自然や人を無視してはならない」(「おおらかな大地 速水史朗」展高松市美術館1997年)と速水が述べるように、その造形からは自然と人との対話が感じ取れる。素材となる土と石に挑み制作するというよりは、素材に向き合い問いかけることにより日常にある自然、つまりは故郷の風土が持つおおらかさにも結びついているように思われる。
1997~98年にかけて高松、滋賀、下関の各美術館で回顧展が開催され、好評を博したが、今展ではそれ以降に制作された近作を中心に展示。環境造形の写真パネルを加えて速水の新しい世界を探ろうとするもの。