山は、ふるさとの代名詞ともいえるものです。わたしたちの暮らしに多くの恵みをもたらし、大いなる存在として古来より信仰の対象ともされてきました。
戦後、その半生をかけて草屋根の民家のある風景を追いつづけた向井潤吉(1901-1995)は、民家を描く旅の中で、数々の名峰に出会いました。雄大な景色は旅する画家の目をおおいに癒し、愉しませたことでしょう。向井は、特徴的な姿をみせるそれぞれの山容を的確にとらえ、その場で感受した心象をも交えて描きだしています。
向井潤吉が描いた山と民家を一体として捉えた作品を観ると、それらはしばしば山が遠景に配置される構図になっています。雪をいただく山、また夏空を背にした青くかすむ山など、取材された季節によって、山の表情もまた巧みに描きわけられています。そして、山々の表情と近景の草木の表現が響き合うことで、それぞれの土地に生じる季節感が画面にいきわたっているようです。
本展では、岩手山、妙高山、白馬岳、八ヶ岳、そして富士山といった、いわゆる「百名山」に数えられる名峰をはじめとする山々と、それぞれの地に息づく民家を描いた風景を集めてご紹介します。
四季折々の山の豊かな表情とともに、日本の風景に向き合った画家の眼差しを感じていただければと思います。