第二次世界大戦からの復興期、人々のくらしがまだ安定したとはいえない1951年11月。文化・芸術の力をもって人間相互の理解を深め、歴史的美術を現代の目で見つめなおすことを方針にして、神奈川県立近代美術館は鎌倉の地に開館しました。当時を知る人は、戦後の混乱と再生の時代にあって、美術館の開館はひとつの光のように感じられたといいます。その光は、多くのアーティスト、コレクター、愛好家、観覧者に支えられ、「鎌倉館」からこの「葉山館」にも受け継がれています。
特集展示の坂倉新平もその一人ですが、当館の現代美術コレクションは、アーティストやコレクターとの長年にわたるつながりから作品の収蔵に至ったものが大半を占めています。今回の展示では、その「縁」と「陽光礼讃 谷川晃一・宮迫千鶴展」、「特集展示 板倉新平」に呼応する「光」に思いを致しながら、1960年代以降の作品を中心に構成します。
コレクション展2の特集展示として、坂倉新平(1934-2004)をとりあげます。
坂倉新平は岐阜県に生まれ、東京の文化学院美術科に学んだ後、1963年から1980年までフランスで制作活動を行います。1981年から亡くなるまでは、神奈川県の二宮町に暮らしました。
坂倉新平と当館は、不思議な「縁」で結ばれています。美術の道を志して1951年に東京に出てきた17歳の新平は、19歳のとき、同姓の(親戚ではありませんが)建築家・坂倉準三に出会います。坂倉準三は、造形的な面だけではなく「建築家として現代美術を客観的に世界美術史の高さから見て教えて」くれたといいますが、さらに、若いうちに美しいものを見て、旅行でもなんでも思い立ったらどんどんやれと語ったそうです。この教えに従って、新平は後年数多くの旅行をすることになりました。
1951年、坂倉準三は師のル・コルビュジエに先んじて美術館建築を実現させます。それが「鎌倉近代美術館」の愛称で呼ばれた当館の鎌倉館(2016年3月閉館)です。