ニューヨークのメトロポリタン美術館は、パリのルーヴル美術館に並ぶ世界最大の美術館であり、その中に現代美術のコレクションまで所蔵しているという特徴から見れば、ルーヴルをもしのぐ最先端の総合美術館である。今回は特別に、その近代美術のコレクションの中から、パリが国際的な芸術の都として最も華やかだった時代、1895年から1930年代までに焦点を当てて、名作絵画72点が展示される。この時代は総括的に「エコール・ド・パリ」の時代と呼ばれるが、その意味は、ルドン、ボナール、ルソー、マティス、ドラン、ブラック、レジェ、ユトリロ、ローランサン、バルテュスといったフランスの画家たちのあいだに、20世紀の大スターたるピカソを筆頭に、グリス、ミロ、セヴェリーニ、デ・キリコ、モディリアーニ、ヴァン・ドンゲン、パスキン、スーチン、シャガールなどといった外国からパリに定住した画家たちが加わって反アカデミスムの一大画壇を形成していたからだ。彼らは互いに覇を競い、酒を酌み、口論し、そして互いに認めあって、華やかでもあり、奥深くもある魅力的な芸術世界を生みだしていた。「巴里(パリ)派」という以外には、この豊穣な芸術の特徴を説明することが出来ないのだ。ひとつの世界でもあり、極めて個性的な一人一人の画家が煌いている世界でもある。またそこは、人間の喜怒哀楽すべてがある。
(Bunkamuraザ・ミュージアム プロデューサー 木島 俊介)