笠岡出身の芸術家、森谷南人子(もりたになんじんし)は日本画、油彩画、版画の領域に多彩な能力を発揮して、魅力に富む画業を形成しました。このたび竹喬美術館では、近年新たに発見された作品と同年にご遺族から寄贈を受けた作品を中心とする、森谷南人子展を開催します。
南人子(1889ー1981)は、現在の笠岡市小平井に生まれ、幼少期を神戸で過ごし、のちに国画創作協会の画家となる村上華岳と親交を結びます。京都市立美術工芸学校、京都市立絵画専門学校で主に日本画を学びますが、油彩画や木版画にも本格的に取り組みます。この三つの絵画領域にわたる制作は、生涯を通してのものです。笠岡や長く居住した尾道など瀬戸内沿岸に取材したスケッチをもとに、それぞれの絵画手法を多彩に展開しています。日本画については、国展、帝展、新文展、日本南画院展に明確な足跡を残し、油彩画については展覧会への出品歴はありませんが、大正初期の先鋭的な芸術団体の活動と洋画家・小林和作との交流による作品が確認されます。また木版画については、日本創作版画協会に出品するなど、本格的な創作版画家として美術史に名を留めています。
2014年にご遺族宅より、1929年の第1回新樹社展《早春麗日》、1931年の第12回帝展《雨後新樹》など4点が発見され、寄贈を受け2015年度に額を新装しました。また2014年にはご遺族からの申出により委託品24点が館蔵品となりました。
このたびの展覧会は、これら初公開作品など当館所蔵の南人子作品60点により、絵画表現の可能性を多岐に切り開いた南人子の全貌をお伝えするものです。油彩画の量感表現と日本画の線描表現を自由に駆使した画境をお楽しみください。