この秋、神戸市立博物館では、「松方コレクション展」を開催します。当館は平成元年(1989)に「松方コレクション展」を開催しましたが27年ぶりとなり、新発見作品と「フランスから見た松方コレクション」という視点を加えて、神戸と大変かかわりの深いこの偉大なコレクションの精華を紹介します。
松方幸次郎(1865~1950)は、鹿児島に生まれ、アメリカのラトガーズ大学、エール大学に学びました。現在の川崎重工株式会社、神戸新聞社の初代社長で、日本の近代産業の発展に尽力した実業家でした。
その一方で松方幸次郎は、「松方コレクション」と称される西洋美術の一大コレクションを形成した大収集家として知られています。松方は本格的な西洋美術に触れることができなかった日本人のために、上質の美術作品を日本に紹介したいと考え、第一次世界大戦中の1916年から1927年までの11年間、私財を投じてヨーロッパで精力的に美術品を収集しました。また松方は、浮世絵のコレクションを一括してフランスの地で購入し、日本に里帰りさせました。
しかし、1927年に勃発した金融恐慌のあおりを受け、日本にもたらされた1300点におよぶ作品は散逸を余儀なくされました。浮世絵のコレクションは、一括して帝室博物館(現東京国立博物館)に移管され現在に至っています。関税の問題から、日本に運ぶことができずフランスに残され、第二次世界大戦をくぐりぬけた絵画・彫刻370余点のコレクションは、戦後、交渉を重ねて、1959年、留め置かれた19点を除いてフランスから「寄贈返還」されました。このコレクションを中心に、上野に国立西洋美術館が設立され現在に至っています。本展では、戦後、フランスに留め置かれた19点の作品のうちのロートレック、ピカソ、スーティン、セザンヌ、モローの5点の作品が、松方ゆかりの地・神戸で展示され、広く公開されます。
また本展は、「フランスから見た松方コレクション」という視点を取り入れています。松方コレクションに多く含まれ、機会があれば購入したであろうフランス絵画の名品を選りすぐってフランス諸館から借用します。松方コレクション以外のコロー、ドービニー、エンネル、バスティアン=ルバージュ、カロリュス=デュラン、カリエール、コッテほか、フランス絵画の名品18点をあわせて展示します。
本展は、松方コレクション101点、松方以外のフランス絵画18点、東京国立博物館所蔵の歌麿、北斎の浮世絵19点、さらに関係資料20点を加えた約160点を展示します(版画作品は展示換えがあります)。美術館建設を夢見ながらも一大コレクションの散逸を防ぐことができなかった松方幸次郎の叶わなかった想い、夢の軌跡をあとづけるまたとない展覧会になるものと考えています。