髙畠依子の絵画は一筋の絵の具を一本の糸のように絞り出しながらキャンバス上に描きます。それは例えばポロックが絵の具をさりげなく撒くことから始めるアクションペインティングとは案外異なるもので、むしろ、いわば一枚の布地をつくることが一本の糸を織り機に掛けることから始まるかのようです。
もともとファッションのテキスタイルに魅せられ、服地のサンプルのコレクションもしてきた髙畠は、一本一本の糸が布地というひとつの「面」を生み出すことに着想を得て、独自の絵画手法にたどり着きました。
絵具を紡いで丹念に織り物にしたかのような平面を生み出すことから始まった髙畠の作品は、ときに画面が乾く前に強力なブローを当てて絵の具を吹き飛ばすような、大胆な所作に及ぶこともあります。そこには作り、こわすことによって、さらに新しいものが生まれるという、単純にして美しい弁証法的視覚世界とでも言うべきものが出現します。
2014年の東京オペラシティアートギャラリーにおける若手作家を対象とした「Project N」シリーズでの個展において、静かに熱い支持を得た髙畠芸術は、以後すみやかに人気を博し、香港、上海、台北、NY、シンガポールのみならずヨーロッパにもすでに伝播しています。
今回の個展は、連作6点による展示となりますが、実は作家本人にとってもシュウゴアーツにとっても、あらかじめ予定されていたプログラムではありません。
髙畠はこの夏前まで、彼女が私淑するアニ・アルバース(Anni Alberes 1899-1994)の研究に没頭していました。アニ・アルバースは夫のジョセフ・アルバース(Josef Albers 1888-1976)とともにアメリカに渡り、テキスタイル・アーティストとして独自の地位を獲得しましたが、渡米前はバウハウスでパウル・クレー(Paul Klee 1879-1940)の後任としてテキスタイルの教授であったことでも知られています。
その研究がひと区切りついて、ようやく制作に戻ったところでもあり、シュウゴアーツ・ウィークエンドギャラリーが六本木に移転する前に、是非とも三宿の空間に作品を展示したいという本人のかねてよりの希望もあり、夏休み明けの2週間を急遽個展に当てる運びとなりました。
都合四日間、8月27日、28日、9月3日、4日の土・日曜日のみの展覧会ではありますが、青木淳の独創的なギャラリー空間に髙畠依子の絵画世界がどのように響き合うか、興味深い展示になることは必至です。御高覧頂ければ幸いです。