装幀、挿絵、舞台美術など幅広い創作に才能を発揮した日本画家、小村雪岱(こむら せったい・一八八七―一九四〇)は、本年設立百年を迎えた資生堂意匠部(現 宣伝・デザイン部)創設期におけるデザイナーの一人でした。
一八七二年に洋風調剤薬局として起業した資生堂は、化粧品事業に転換した当初からデザインや宣伝の重要性に着目し、初代社長福原信三は自らが主導して意匠部を設立。独自のデザインポリシーに貫かれた商品や宣伝制作物を世に送り出しました。
このような中、東京美術学校(現 東京藝術大学)で日本画を学んだ小村雪岱が入社します。意匠部に籍を置いたのは一九一八年から一九二三年までの五年間でしたが、この間に雪岱は、現在に至るまで弊社独自の文字として使われ続けている「資生堂書体」の基礎を築きました。資生堂書体は、しなやかさと強さを兼ね備えた優美なもので、さまざまな形で資生堂の商品や制作物に使用され、資生堂のイメージを普遍化させることに貢献してきました。
今回開催する「小村雪岱と資生堂書体」展は意匠部設立百年にちなみ、雪岱の作品と、そこから触発されたさまざまな言葉や文字、あるいは詩文などを、現代の宣伝・デザイン部デザイナーが資生堂書体で描いて展示します。
雪岱の粋で瀟洒な絵画世界とさまざまな文字が共鳴し、また、切り結びながら創りあげる展示空間をお楽しみください。
また、会場には雪岱による装幀本を併せて展示し、書籍を彩るための文字のデザインにも優れた足跡をのこした、雪岱の創作世界をご紹介します。