最新の知見に基づく「鉄釉陶器」の人間国宝 石黒宗麿(1893-1968)の回顧展を開催いたします。
富山県に生まれた宗麿は、25歳のときに「稲葉天目」と称される中国宋代(12~13世紀)の窯変天目茶碗(現在、静嘉堂文庫美術館蔵・国宝)に感銘を受け、作陶を志したと語っています。宗麿は特定の師を持ちませんでしたが、昭和3年(1928)に京都へ移り住んで以降、中国の唐・宋時代の古陶磁を研究し、幅広い陶芸技法を体得していきました。
昭和11年(1936)、京都市北部の八瀬 (やせ) に窯を移して以後はここを生涯の作陶の場とし、独創的な陶芸の世界を築き上げていきます。戦後はチョーク釉の新技法や、藍彩など低下度色釉を駆使した、従来どこにもなかった作品を創出。自由な気分と近代感覚に溢れた、斬新で品格ある作品を生み出し続けました。
昭和30年(1955)に重要無形文化財保持者(人間国宝)の制度が誕生すると、富本憲吉、濱田庄司、荒川豊藏と共に、陶芸界から最初の認定を受けています。宗麿の本格的な回顧展として約20年ぶりとなる本展では、宗麿の陶芸作品124点と書画14点により、宗麿芸術の全貌を紹介します。また、宗麿が研究した中国唐・宋時代の古陶磁も併せて展示します。古陶磁を範としながらも、作家としての自分の表現を追求し続け、多彩な作品を生み出した石黒宗麿の芸術の魅力を感じていただければ幸いです。