岡本太郎にとって、画家への道は自ら望んだというよりも、母かの子の強い希望に沿った、いわば敷かれたレールでした。かの子の没後、長いパリ留学も終わりにさしかかった時期、父一平は、「君は中学生のとき画より音楽の方がずっと好きなようだった」と手紙に書き綴っています。「これからもしタゴシがやはり音楽が天成好きなら音楽をやり、楽器を執るに、もし手練れの年齢の時期が過ぎたのなら作曲に関したことでもやり、とにかく好きな道で苦楽して一生を終わらせ度い。そのため絵はよしても仕方ない。」(『母の手紙』婦女界社、1941年)
音楽を本業にすることこそありませんでしたが、アトリエには与謝野晶子から贈られたピアノを置き、全くの独学ではありましたが、制作の合間にショパンの「雨だれ」などを弾いて楽しみました。岡本の絵画にも、共感覚にも似た、色やかたちの響きを感じるものが数多くあります。岡本太郎の作品に響く音に、どうぞ耳をすませてみてください。