十代の頃の清方は、樋口一葉の著作を愛読し、いつか挿絵を描きたいと切望していました。しかし、明治29年(1896)に一葉が24歳の若さで他界したため、その願いが叶うことはありませんでした。
その後、挿絵画家として当時の人気小説家たちと仕事をするようになり、世間に広く認められ、日本画家へ転身し、近代日本画を代表する画家となります。一葉の文学を敬愛する気持ちは変わることなく、折に触れて画題に取り上げ、特に『たけくらべ』の主人公・美登利を繰り返し描きました。
本企画展では、一葉の没後120年を記念し、自らの「制作の水上」と位置づける代表作の一つ《一葉女史の墓》のほか一葉に関する作品を中心に、尾崎紅葉や泉鏡花の著作など、当時の文学との深いかかわりを、秋の情趣が感じられる作品とともにご紹介します。