1930年結成された芦屋カメラクラブは、新興写真運動と呼ばれたその活動の中心的存在でした。なかでも中山岩太は、パリでファッション写真、イタリア未来派の舞台写真などを撮影し、プランポリーニや藤田嗣治などとの交流によるさまざまな芸術的刺激を背景に、数多くの前衛的な優れた作品を残しました。
しかし一方で中山は、1918年東京美術学校臨時写真科の第1期生として卒業後、ニューヨークに渡り写真スタジオを開設し活動を始め、1929年からは芦屋で、また1936年には大丸のスタジオを任されるなど、依頼によるポートレイト写真等を生活の基盤とした人気の商業写真家でもありました。
中山が作品として発表したポートレイトは、美しくも重厚です。しかしこのような印象は、商業写真の仕事にも損なわれることなく発揮され、確かな技術とともに、特に女性に人気があったと伝えられるセンスのよさが伺えます。
本展では、特に女性を写した中山岩太のこれらポートレイトのなかで特に正子夫人を写した《黒い扇》と商業写真のオリジナルプリント2点を中心に展観します。
また、写真館に行って写真を撮ってもらうという行為は今では特別なことではなくなりました。大丸スタジオの資料とともに当時の状況を振り返ります。