いわき市平(旧平町)に生まれた田口安男は、終戦と同時に画家を志し、東京藝術大学で油絵を学びました。藝大専攻科に進んだ田口は、研究室の壁の絵具で汚れた手痕から、彼の絵画の重要な要素となる「手」のモチーフを紡ぎだし、安井賞を受賞するなど注目を集めました。その後、田口の「手」は大画面をおおい尽くし、絡み合い、「焔」や「波」や「眼」へと変容しつつ流れ出し、特有の世界観をかたちづくりました。また、イタリア留学で出会った古典技法「黄金背景テンペラ」の研究が、その後の絵画表現に新たな展開をもたらしました。
当館で二度目の個展となる本展では、当館が所蔵する油彩画や黄金背景テンペラ画などを一堂に展示すると同時に、画家を目指した頃に家族や友人を描いた初々しいデッサンから、齢を重ねてなお飽くなき探求心で新たな境地を模索する水彩ドローイングまで、日々積み重ねられた膨大な数のドローイングを展示することにより、70年に及ぶ画家・田口安男の思考の軌跡をたどります。