本展は、東京国立近代美術館工芸館が所蔵する明治以降の工芸作品の中から、いわゆる人間国宝らによる名品などを選りすぐって、日本工芸100年の歩みを辿ります。併せて、第一次世界大戦終了後の1920-30年代と高度成長期の1960-70年代を中心に流入した、オリエントの美術工芸からの刺激と作家からの反応を読み解きます。
我が国が近代国家として歩み初めた明治の工芸は、高度な装飾性と超絶技巧とで国際的に高い評価を得ました。民衆が自由を求め始めた大正時代、徒弟制度を超えて、個人の独創性を重んじようとする機運が高まる中、欧米の科学的な研究を踏まえた創作に取り組む作家が現れました。
なかでも、古陶磁研究に科学の視点を持ち込んだ河井寛次郎は、児島虎次郎が西洋絵画と共に持ち帰ったフスタート(エジプト)由来陶片に注目していたことが知られています。また、葆光彩磁で知られる板谷波山、純粋に芸術追求を行った富本憲吉らの活動は、個人作家の覚醒とも呼ぶべき、時代の到来を告げていました。
昭和初期、民藝運動の中心にいた河井寛次郎や濱田庄司、桃山や江戸初期の古陶に学んだ荒川豊蔵や金重陶陽、中里無庵などによる、我が国固有の審美の追究は、長く暗い戦争の中で光彩を放つものでした。
戦争終結による自我の開放は、陶芸から器物性を排除したオブジェ造形を主導した八木一男や鈴木治などによる現代陶芸の道を開きました。他方、大いなる喪失感を契機とする伝統への回帰の機運が高まる中、1955年には重要無形文化財保持者制度が創設されました。いわゆる人間国宝のうち、鉄釉の石黒宗麿や三彩の加藤卓男は、ペルシアのやきものに想を得た作品やスケッチを残し、染付の近藤悠三はイランへ出かけ、現地で制作も行いました。
日本工芸100年の歩みに、ペルシアの記憶を感じていただけると幸いです。