本展では、朝鮮半島で育まれた民衆的工芸とも言えるポジャギをご紹介いたします。ポジャギとは、日本でいうところの風呂敷であり、朝鮮半島における伝統的な物を包んだり覆ったりするための1枚の布のことです。チマ・チョゴリなどを作る際に出る端切れを組み合わせて作られたポジャギは、幾何学模様で緻密に構成されたかのように思えるデザインが、実は「村の地図」であったりすることによって、有機的な美を作り出しています。素朴でありながらも凛とした美しさがありますが、それは、端切れをも大切に使った母親の知恵と家族への愛情と労力が作り出す表情によるものかもしれません。本展では、公益財団法人日本伝承染織振興会が所蔵する歴史的なポジャギに加え、呉夏枝の、祖母、母、叔母のチマ・チョゴリを撮影した写真作品を一緒に展示いたします。着ていた人の存在感や記憶、それが布に宿っている事を想起させるこの写真シリーズは、「布」が、私たちにとって、身体、精神、記憶、アイデンティティといった様々な点において、どのような関わりを持ったモノであるのかという問いをもたらします。ポジャギを作っている「布」の「端切れ」という素材に、多角的な切り口を与えてくれるでしょう。
また、併設展示として「金銭の支払いの対象にならない労働として社会的にも経済的にも周縁化されていった、労働の痕跡」を取り上げた、碓井ゆいの《shadow work》シリーズを展示いたします。ポジャギの後ろにある「労働」と「労働をした人」にも視点を向けたいと考えています。集団を構成する個が見えてくることによって、自分との連続で考えることができ、理解や思いやりの深まりがあるのではないかと考えます。ごく一般的な家庭の作り手を浮かび上がらせ、思いを馳せることが、お隣の国の理解の深まりに通じれば幸いです。もちろん、素朴で美しいポジャギを目でもお楽しみください。