長野県飯田市に生まれた横井弘三(1889~1965)は、1892年(明治25)に上京し、独学で絵画を学びます。1915年(大正4)の第2回二科展に初出品し、期待の新人画家に贈られる第1回樗牛賞を受賞するなど、はやくから作品が認められました。彼の作品は人を微笑ませるのびやかな魅力をもち、“日本のアンリ・ルソー”とも呼ばれ、高い評価を受けました。
1923年(大正12)の関東大震災をきっかけに二科会を離れた横井は、漆絵や焼き絵など新たな技法の開発に取り組む一方、「理想展」と呼ぶ無鑑査、自由出品のアンデパンダン展を自ら組織するなど、自分だけの表現を追い求め続けます。中央画壇から離れた横井の画業は必ずしも恵まれたものではありませんでしたが、戦争を機に長野市に移住した晩年の約20年間は、地元の支援者に恵まれ、精力的に制作活動を展開しました。彼の作品は今もなお寄留した寺や知人宅、小学校などに多く残され、愛され続けています。
多くの作品が愛好家による個人所蔵であるため、まとまってみる機会が少ない横井作品。本展では、没後50年を機に、200点以上の作品を一堂に会し、いまだ明らかでない横井の画業の全貌に迫ります。