和歌山県新宮市出身の写真家、鈴木理策[1963- ]の近年の活動を紹介する展覧会を田辺市立美術館、熊野古道なかへち美術館[田辺市立美術館分館]で開催します。
鈴木は1980年代半ばから写真を媒体に創作活動をはじめ、1998年に故郷、熊野に至る道のりをテーマにした初の写真集『KUMANO』を上梓しました。以後に展開されたロードムービーのような物語性を持って、見るものの意識に柔らかに働きかける鈴木の表現は高く評価され、2000年には第25回木村伊兵衛写真賞を受賞しています。
その後もサント・ヴィクトワール山、セザンヌのアトリエ、桜、雪といった多様な対象に異なるアプローチで取り組み、意欲的な新作を発表し続けています。
多彩な表情を見せる鈴木の作品ですが、一貫してうかがえるのは写真というメディアについての深い考察と「見ること」への問いです。
鈴木の写真に対峙するとき、私たちは純粋な「見る」という行為へと誘われ、意識の奥底を直接ゆさぶられるような体験をします。
熊野古道なかへち美術館では、カメラの特徴と水面の特性に着目した「水鏡」を特集して展示します。現実の世界と水面にうつる世界とが溶け合う「水鏡」は、私たちの知覚と鏡像とをないまぜにして、いままでに見たことのない新鮮な風景を生み出す鈴木の最新シリーズです。