1934年新潟県南魚沼市(旧塩沢町)に生まれた木村希八は、独学で各種版画に取り組み、1959年鎌倉市で石版画工房を開設。以来、わが国における特にリトグラフの刷り師の草分け的な存在として、半世紀以上にわたり活躍を続けました。その基本姿勢は、商業主義的な「複製版画(エスタンプ)」を善しとせず、一貫して作家と刷り師との信頼関係、協働から生まれるオリジナル版画の制作にこだわる、というものでした。
木村の卓越した刷りによって世に送り出された版画は、平山郁夫や加山又造、片岡球子ら日本画壇の重鎮から、草間彌生、篠田桃紅、靉嘔など現代美術界の俊英たちのものまで広範に及び、手元には、刷り師の保存用に作られるP.P.版という非売扱いの版画が多く蓄積されていきました。それらを有効に活用してほしいという篤志によって、新潟市美術館への寄贈が始まったのは1988年からのことです。
2014年11月、木村は80年の生涯を閉じますが、生前の遺志により新たに374点の作品が当館に寄贈されました。木村は自身も画家であり、また旺盛なコレクターでもありましたが、今回の寄贈には、それらの作品も数多く含まれています。本展は累計941点を数える当館所蔵の「木村希八コレクション」から、刷り師、コレクター、画家の三つの視点で展示構成し、故人の業績を振り返ります。