女性の自立が困難であった日本の洋画壇に、新たな息吹を吹き込んだ画家、三岸節子(1905-1999)。故郷である愛知県起町(現:一宮市)から上京し、女子美術学校(現:女子美術大学)を首席で卒業、女性として初の春陽会入選という華々しいデビューを飾ります。そしてその後、独立美術協会、新制作派協会などへの入選を重ねながら、女流画家団体の結成に加わるなど女性が活躍できる舞台を着実に築いていったのです。しかしその裏では、奔放な画家・三岸好太郎(1903-1934)との結婚と早すぎる死別、残された3人の子を抱えての苦しい生活と波乱が続いており、制作との厳しい両立を強いられました。そうした中で描き出す画面は生命力に燃え、拠点の移り変わりとともに作風も大きく変遷、晩年20年あまりを過ごしたフランスでは、画面に鮮やかな色彩を開花させていきます。その迸る絵具の花は、節子の辿った激動の人生と、情熱の痕跡そのものであり、見る者の心に烈しい感動を与えずにはおきません。
節子生誕110年を記念した本展は、油彩画のほか素描や装丁本、パレットなどを含む約80点の作品により、その画業を辿るものです。自立の決意を眼差しに秘めた若き日の《自画像》(1925年)をはじめ、最晩年の大作《さいたさいたさくらがさいた》(1998年)も登場します。描くこと、生きることに燃えつづけた節子の情念が、今もそこに宿っているに違いありません。