西洋絵画の歴史において、宗教の枠を超えた肖像画はルネサンス期に発展します。王侯貴族やパトロンたちを描いた肖像画の登場です。古代ギリシア・ローマを範としたルネサンスは、人間・個人の存在そのものへの関心を呼び起こしたのです。
ルネサンス期に発展した肖像画は、17世紀に大きな展開を見せます。海洋貿易で繁栄したオランダには裕福な市民層が増え、それにともなって肖像画の需要も増大しました。フランス、イギリス、スペインなどヨーロッパ諸国の王侯貴族たちも、屋敷や宮廷に飾るために、ときには複数の肖像画を描かせました。
19世紀半ば、写真の技術が誕生します。手軽に被写体を紙に写しとれる写真は瞬く間に社会に広がりました。最初は絵画のような写真が好まれていましたが、やがて瞬間を切り取ることのできる写真独自の表現を生かした肖像写真が登場します。被写体となった人物が一瞬見せる表情やしぐさに、その人の性格や想い、ときには人生までも雄弁に物語るような優れたポートレイトが生み出されるようになりました。
本展では、描かれた顔(絵画)、写された顔(写真)、彫られた顔(彫刻)など、さまざまな手法で表現されたポートレイトに焦点をあてて、そこに表現される人間の魅力を再発見したいと思います。