中国や日本の美術には、古くから画賛 (がさん) の形式がありました。画賛とは、絵画と詩文などの文字とを組み合わせたものです。中国では「詩書画三絶」、「詩画一致」という言葉があり、詩作、書道、絵画の3つに堪能な人物を君子あるいは文人と称して深く尊びました。人格、つまり人間性が表現されることを理想としたのです。
歌人・書家・東洋美術史学者の會津八一 (あいづ やいち) (号・秋艸道人 (しゅうそうどうじん) 1881~1956)は、若いころから絵を描くことが得意でした。作品には自ら書いた詩歌と画を組み合わせた<自画賛>と、友人の画に詩歌を書き入れた<合作>、一時期熱中していた油絵などもあり、友人知人に宛てた絵手紙も多く残っています。いずれも多面的な分野を一つに結びつけた八一の美学が遺憾なく発揮されています。
本展では、八一が墨絵で描いた四君子(梅、竹、蘭、菊)、果物、小動物、仏像の絵などに、愛唱の漢詩、自作の歌や俳句を書き入れた自画賛、油絵や絵手紙を展示。また、八一と交流のあった脳神経外科医の中田瑞穂、画家の杉本健吉、長井亮之、版画家・棟方志功、恩師・坪内逍遙らとの合作もいくつか紹介します。中でも、ことし没後40年にあたる中田瑞穂(1893~1975)は八一との親交も厚く、主治医も務めました。二人の作品は<心友合作>と呼ばれています。「十二曲屛風」「吊し柿図・あさひさす」「鮭図・心無機事」など、科学者の眼で写実的に描いた中田の絵が、八一の個性的な書によって一層生気を与えられた絶妙なコラボレーションといえるでしょう。
期間中「會津八一の歌を映す」第9回秋艸道人賞・写真コンテスト入賞入選作品展も同時開催いたします。