20世紀が生んだ日本を代表する版画家・池田満寿夫(1934-97)は、26歳で第2回東京国際版画ビエンナーレで文部大臣賞を受賞するなど、早くからその才能を認められ、1965年31歳のときにはニューヨーク近代美術館で日本人としては最初の個展を開きます。翌66年には第33回ヴェネツィア・ビエンナーレの版画部門で大賞を受賞し、一躍時代の寵児となりました。1997年に63歳で亡くなるまでに制作した版画は、1000点を超えます。技法や画風は時代とともに変化しましたが、鮮やかな色彩の中に踊る線描の躍動感は晩年まで衰えることはありませんでした。
1977年に第77回芥川賞を受賞した小説『エーゲ海に捧ぐ』の執筆やその映画化、また陶芸や書など幅広い領域で多様な作品を残しましたが、「あふれるイマジネイションを定着させる方法として」版画が池田満寿夫の資質に最も適していたことは自他共に認めるところです。
この池田版画に注目し、約30年をかけて全版画を蒐集したのが、池田満寿夫の両親の主治医でもあった長野市在住の医師・黒田惣一郎氏です。本展ではこの黒田コレクションにより、初期の精妙な銅版画から大胆な色面のリトグラフ、表現主義的な独特のエロスの世界、やがて日本の古典に回帰していった晩年までの版画を核に、1970年代の水彩とフロッタージュによる作品や、技法書のためにファッション・モデル山口小夜子を描いたドローイング・シリーズ、また初期の油彩画や晩年の陶芸作品を加えた約300点で池田満寿夫の豊潤な芸術世界を紹介いたします。
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