タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムは、11月21日(土)から12月26日(土)まで、浜口タカシ個展「反体制派」を開催いたします。タカ・イシイギャラリーでの2度目の個展となる本展では、1960年代末から70年代末にかけて展開された学生闘争と成田闘争、2つの反体制運動を捉えた報道写真家の記録から、あわせて約32点を展示いたします。
浜口タカシは1950年代に写真家としての活動を開始し、社会的・政治的闘争、そして主要な事件や歴史的ターニング・ポイントをカメラに収めました。浜口の関心は単なるルポルタージュに留まらず、社会に生起する諸問題の本質に向かい、それらを自律的に撮るためにも、通信社や新聞社に属さずフリーランスとして活動しました。
60年代半ばから各地で再び活発化した学生運動は、当初、各大学個別の問題に関する学園闘争が多かったものの、60年代後半には大学当局の硬直した対応や、政府・機動隊の介入を経験する中、世界的な現象として現れたスチューデント・パワーに呼応するように、次第に既存の政治・権力体制を否定する活動へと性質を変えていきます。そして、本館封鎖やバリケードストライキといった実力行使を伴う全学共闘会議(全共闘)と呼ばれる運動形態へとその手法も過激化していきました。同じく60年代後半の1966年、当時の内政の最重要課題とされた、現・成田国際空港の建設にあたり、三里塚・芝山地区が候補地として突然閣議決定されました。政府の「地元無視」の姿勢や公団側の態度に農民達が猛反発し反対運動を展開、支援学生らを巻き込む形で機動隊との激しい衝突を繰り広げました。この流血の惨事をも伴う熾烈な争いは、同時期に展開されていた学生運動の過熱化にも影響を及ぼしました。
本来学問をなすべき場所で、学問を学ばなければならない学生がヘルメットに角材をもってたたかうといったことはちょっと常識じゃ考えられないのだが、学生たちがぶつかっていく原因があることが取材しているとだんだんにわかってくるのである。(……) ただこういう状況を記録し伝達しなければという使命感でシャッターを切った。
浜口タカシ「撮影雑感」『大学闘争70年安保へ』雄山閣出版、1969年、p.189
乱闘の危険や取材拒否などの困難に晒されながらも、報道写真家としての姿勢を崩さず撮影を行った浜口の写真は、時代の熱を伝えるだけでなく、見る者に人間が人間らしく生きるためにはどのようにあるべきかという問いを投げかけます。また、ある事件や運動について、その生成から終焉までを長期間をかけて克明に記録した写真群は、折々の論説や主義主張を超え、時代史的な魅力をも備えていると言えます。
彼の作品にはイデオロギーに左右されない純粋な立場で、真剣にひとつの対象に取り組んで記録し伝達せねばならないという執念があふれている。(……) このドキュメンタリーな記録は情緒をこえて、われわれがいま何を考えなければいけないか、何をしなければならないか、といったわれわれの理性になにかを訴えつづける。つまり彼の作品には人間と人間との触れ合い、心と心の触れ合いというヒューマニズムが基調となっているのである。
林忠彦「烈々たるヒューマン・タッチ」『大学闘争70年安保へ』雄山閣出版、1969年、pp.12-13
なお、本展の開催にあわせて写真集が刊行されます。