漆はしっとりとした光沢を放ち、調度品などに塗った際の肌の美しさから、古来より日本人に愛されてきました。江戸時代には、高度な技術を極めた専門の蒔絵師により、大名家の姫君たちが結婚する際に持参する大揃いの婚礼調度が制作され、女性のハレの場を彩りました。
本展では、実質的な初代岡山藩主池田光政 (いけだ みつまさ)(1609~1682)の娘で、一条教輔 (いちじょう のりすけ) に嫁した輝姫の婚礼調度の重要文化財「綾杉地獅子牡丹蒔絵婚礼調度 (あやすぎじししぼたんまきえこんれいちょうど)」をはじめ、9代藩主池田茂政 (もちまさ)(1839~1899)の萬寿子夫人、明治時代の侯爵池田詮政 (のりまさ)(1865~1909)の安喜子夫人(久邇宮朝彦親王の三女)所用の婚礼調度や、そのミニチュアともいえる愛らしい雛道具など、池田家に伝わった調度品の数々をご覧いただきます。
加えて、江戸幕府お抱えの蒔絵師として活躍した幸阿弥長重作の「桜橋蒔絵料紙箱 (さくらばしまきえりょうしばこ)」、「松楓輪蝶紋蒔絵文台 (まつかえでりんちょうもんまきえぶんだい)」、「近江八景蒔絵棚 (おうみはっけいまきえたな)」など、日本の豊かな自然ならではの花鳥風月のモチーフを取り入れた蒔絵の工芸品をご紹介します。本展を通じて、江戸時代から明治時代の蒔絵史を飾る至高の意匠美をご堪能いただけましたら幸いです。