タカ・イシイギャラリーは9月26日(土)から10月24日(土)まで、川原直人の個展を開催いたします。タカ・イシイギャラリーでの7年ぶり6度目の個展となる本展では、新作絵画約5点を展示致します。
わからない物事に突入することが画家にとって必要な行為だと思って制作しています。今回の絵画は、スタンダートでありますが、その起点となります。表現主義的精神の再発見と、生理的な要素、身体性への考察は、このたび得られたものとしてしっかりつかんでいこうと思います。
川原直人
本展の展覧会タイトル「Chronostasis クロノスタシス」は、速い眼球運動の直後に目にした映像が長く続いて見えるという錯覚を意味します。クロノスタシスはギリシア語の「クロノス(時間)」と「スタシス(持続)」に由来しています。クロノスタシスのよく知られる例として、「秒針が止まって見える錯覚」があります。視線を素早く動かした後にアナログ時計に目を向けると、秒針の動きが示す最初の1秒間がその次の1秒間より長く感じる、もしくは秒針が一瞬止まって見える錯覚です。これは、脳が継ぎ目のない映像を作成するために、眼球が速く動いたときに生じるブレや残像を消去し、最後に焦点を当てたイメージへと置き換えることから起こる錯覚とされています。
川原は、身近にある人物や風景などの写真や映画の場面を忠実に再現した写実絵画を制作してきました。近年では、デューラー、バルテュス、クラナッハ、ドガ、ムンク、ボナール、ピーテル・クラースなどによる古典的作品よりイメージを引用し、モデルを変えて場面を再想定(リ・エンビジョニング)した絵画作品を数多く制作しています。
本展にて展示するシリーズにおいて、川原は明治期の画家、原無松(1866-1912年)の絵画に注目しました。「エドヴァルト・ムンクの『思春期』などに見られる生(もしくは性)への不安と、少しの希望が混ざりあった表現主義的精神が含まれているかのような、不思議な感覚を呼び起こす」と川原が言及する無松の絵画の、古典的な雰囲気のなかに垣間見える、相反する身体性を追求することを本シリーズの主題としています。