―いまの内に記録しておこうと思いましてね。
もう10年もしたら、大変貴重なものになりますよ。
失われゆく草葺屋根の民家を求めて全国各地を旅した洋画家、向井潤吉(1901-1995)。
向井は現地でそれぞれの風物とともに民家の佇まいを油彩や水彩であらわしつつ、同時に制作の記録として、モチーフとなった民家とその周辺景色をカメラに収めていました。
1972年、写真家の林忠彦との対談で向井は、「伝統的なつくりの民家がどんどんなくなるので、いまの内に記録しておこうと思いましてね。もう10年もしたら、大変貴重なものになりますよ。」(『アサヒカメラ』1972年3月号)と語っており、その写真は、まさに戦後の変わりゆく日本の一面を留めた貴重なドキュメントとなっています。
本展では、こうした写真と絵画作品とを併せて展示します。向井が目の前にある現実の風景から何を選び取り、そしてどのように一枚の絵画として画面を作り上げていったのか。残された写真を手がかりに、表現意図や思いを読み解きつつ、旅する画家の眼が見つめたさまざまな風景をご覧いただければと思います。