佐野市立吉澤記念美術館は、近代日本陶磁の高峰・板谷波山のコレクションで知られ、波山を慕って「彩磁 (さいじ)」などに取り組む作家の作品も多く収蔵しています。波山が創始した「彩磁」は、釉薬をかける前の素地に彫刻をほどこし、水溶性顔料による着彩を行うもの――つまり「釉下彩 (ゆうかさい)(下絵付(したえつけ))」の一種です。また波山は、釉下の色彩を和らげる効果を持つ「葆光釉 (ほこうゆう)」など、釉薬と釉下の色彩との関係を熟知した上で独自の表現を作り上げています。波山を中心に、彩磁やそれに類する技法で制作する近現代の作家を取り上げます。なお、釉下への絵付としては「染付 (そめつけ)」や「鉄絵 (てつえ)」など、近代以前から行われてきた技法があり、田村耕一(鉄絵)らによって取り組まれ、多彩な広がりを見せています。
いっぽう、江戸時代以来多く行われてきた色彩豊かな「色絵 (いろえ)」は、釉薬の上から着彩・描画を行う「釉上彩 (ゆうじょうさい)(上絵付 (うわえつけ))」です。富本憲吉など多くの作家により多彩な表現が行われています。透明感のある「和絵具」のほか、不透明な「洋絵具」による表現、金銀彩などを紹介します。
以上のように、この展覧会では、板谷波山らによる「彩磁」を中心に、陶芸作品の着彩・描画が釉薬の「上」「下」どちらに行われているかという点に注目して、当館収蔵品を中心とする近現代日本陶芸作品約50点で構成します。色彩と釉薬の関係や、各技法の特性を理解した上で作品を鑑賞することにより、色の深みや質感など、作品の魅力を一層深く味わっていただけることと思います。