江戸時代中期、中国で教養人の嗜みとして流行した文人画(南宗画)が日本に渡来し、京・大坂といった上方で日本的な文人画(南画)としてもて囃されたのち、江戸に伝わります。その南画を江戸で大成させたのが谷文晁です。文晁は、江戸画壇を代表する画家として知られ、その門下から渡辺崋山らの優れた画家を輩出し、関東を中心に19世紀日本の南画壇に大きな影響を及ぼしました。崋山門下の平井顕斎、福田半香、永村茜山などの画家たちによって形成された遠州南画も、江戸画壇系ネットワークの中に位置づけられます。
ところで文晁は、老中松平定信に仕えた画家としても知られています。定信は政治家として知られるとともに、古今和漢洋の様々な文化事象に興味を持ち、文化に関わる資料の収集、制作を行いました。また同時代の多くの文化人とも交流しました。その文化人としての定信の活動の一端が、定信の命で全国津々浦々の画家の作品を集めて作られた「楽翁画帖」です。
今回の展覧会では、「楽翁画帖」に収められる各地の画家の作品を通じて、定信の文化的活動を振り返ります。そして、その影響を受けた文晁一門の絵画作品、とりわけ遠州南画の名作を数多くご紹介することで、定信から始まる江戸時代の文人ネットワーク、その中での遠州南画の意義を再確認いただければ幸甚です。