書に生きることができないくらいなら死んでしまった方がいい…と語った井上有一は「必死三昧」と書いた。
三昧(さんまい)は辞書をみると、雑念を去って精神を集中すること、とある。念仏三昧、読書三昧などの熟語があるが、必死三昧といったのは有一だけだ。
死に精神を集中するとは矛盾の感がある。
書けなくなったら死んだ方がマシだ、と言う有一は、書三昧の心を、死んでも書くという思いで「必死三昧」という非常識な言葉にして書いたのだろう。
小学校々長まで務めた社会的には尊敬される教師が、実は書き魔が正体であったとは。
禅僧の「莫妄想」(もうそうするなかれ)三字は、有一にとっては、書以外のことにわずらわされるな、ということだったろう。
しかし彼は家庭生活を守るため教師としても立派に働いていた。
「金は紙と筆を買うのと表具するだけは十分欲しい」と記している有一。本展ではご所蔵者のもとで表装・額装された作品約四十点をご紹介する。