私たちは毎日忙しく生活しています。でも時には自分の人生を、自らのいのちについてを考える時間を持つことが必要なのではないでしょうか。私たちは楽しく快適に生きることを求め、多くの方々はそうした生活を送っておられることでしょう。だがその方々の身近にも時に厳しい事態が起こることもまれではありません。そして少し目をまわりに転ずれば、世界の各地で、民族対立に激しい戦いが起こっています。国内でも不可解な多数の人間の殺害や青少年の殺人事件などが毎日のように報道されています。事件でなくとも、がんのような病気の問題も深刻です。
いのちを考えることは生と死の問題を考えることにほかなりません。
この問題は、昔も今も多くの思想家、科学者、芸術家たちが深く思索し、表現しています。私たちもせめてその一端は学ばなくてはならないでしょう。
伊丹市立美術館では、人生のよろこびと厳しさや社会の矛盾を鋭く表現した美術作品を多数収集し、展示しています。また企画展でも、とくに人生の深見にふれることのできる展観を心がけています。
さらに昨年から夏休みの展覧会として、中学生を主とする少年たちと、芸術家、思想家、科学者、と「いのち」の問題を話し合い、討論してもらって、その成果を一緒に表現する展覧会を企画しました。
美術館という場ですから、思索され、討論された結果がものとして表現されることが必要です。美術家の場合にはその作家の深い洞察による作品と、その思想、仕事からの刺戟によって制作された中学生たちの作品を陳列すればよいのですが、科学者や思想家たちとの共同作業の場合にはどうなるか、難しい問題もありますが、今後の課題として楽しく研究していきたいと思っています。
ところで今回は第2回目として、美術作家・中辻悦子(1937年生まれ)さんを迎えて、中辻さんのすでに造られた作品を陳列すると同時に、中辻さんと中学生たちとの話し合いの中から生まれてくる中学生たちの作品を展示します。
中辻さんは、立体造形、インスタレーション、絵画など幅広く制作し、発表しておられます。その中辻さんの「いのち」についての思想と仕事を中学生たちがどう咀嚼し、いかに反応しているかを展示を通して、ともに考えたいと思います。