モーリス・ユトリロ(1883-1955)は、女流画家シュザンヌ・ヴァラドンの私生児としてパリのモンマルトルに生まれました。モンマルトルは多くの芸術家が集う場所でしたが、ユトリロ自身が絵筆をとったきっかけは、寂しさゆえに陥ったアルコール依存症の治療のためという、一種の気晴らしに過ぎませんでした。しかしユトリロの描いたパリ、中でも生まれ育ったモンマルトルを描いた作品には、孤独な魂が表白する深い悲しみと静かな詩情とが漂い、世紀の変わった今日でも見る者の心を惹きつけます。
この展覧会では、絵に取り組み始めて間もない初期の作品から、ユトリロ芸術の頂点「白の時代」、さらに鮮やかな色彩に満ちあふれて華やかさを増した晩年の作品まで、81点の作品を紹介します。約半数が日本では初公開となります。モンマルトルの画家・ユトリロ芸術の全貌を多角的な側面から捉える絶好の機会になると思います。