円形を用いたリズミカルで大胆な構図と、鮮やかな色彩によるソニア・ドローネ(1885-1979)の作品は、20世紀の抽象絵画とデザインの歴史に大きな足跡を残しています。
ソニア・ドローネは1885年、ロシア帝政末期のウクライナに生まれました。裕福な養父母の援助のもと、ドイツで絵画の基礎を学んだ後、画家を志してパリに出たソニアは、同い年のフランス人画家ロベール・ドローネ(1885-1941)と二度目の結婚をし、互いに強い影響を与え合いながら創作を行っていくようになります。二人の密接な関係から生まれる抽象的な作品の数々は、まもなく詩人のアポリネールによってキュビスム(立体主義)の新しい展開と目され、ギリシア神話に因んで「オルフィスム」と呼ばれるようになりました。写実的な描写にとらわれず、天真爛漫ともいえる豊麗な色彩感覚と繊細で詩的なニュアンスに富んだ彼らの絵画は、オルフェウスの竪琴のように魅力的だと称賛されたのです。
ロベールは病気のため1941年に亡くなりますが、ソニアは夫の遺志を引き継ぎ、自らの表現世界をさらに深めていきました。彼女の創作意欲は94年の生涯を閉じるまで衰えることなく、本の装幀、舞台衣裳、室内装飾、 テキスタイル、ファッションなど、その活動は従来までの純粋美術とデザインの枠組みを越えた広範囲におよびました。
本展はアメリカのジェーン・ヴーヒーズ・ジマーリ美術館の全面的な協力のもと、ロベールとの二人展以来、日本では23年ぶりに開催される本格的な回顧展です。1910年代の水彩画から、誌と絵画によるコラボレーションの傑作と名高い『シベリア横断鉄道とフランスの少女ジュアンヌ』、そして油彩画、テキスタイル、晩年の版画など、約130点の作品によって構成される本展は、ソニアの軌跡を堪能していただける絶好の機会となることでしょう。