フェリシアン・ロップス(1833-1898)は、ベルギーの画家・版画家です。彼は官能的で悪魔的な主題にとりわけ特異な才能を発揮しています。それらの作品群は、当初からつねにスキャンダラスな話題の的となりました。
ベルギーの南部、ナミュールで生まれた彼は、若くして莫大な財産を受け継ぎました。それを資金に風刺雑誌『アイレンスピーヘル』を創刊、自らも卓抜なリトグラフを寄稿します。晩年のシャルル・ボードレールとの出会いを経て、当時のフランスの文学者から高く才能を評価されることになります。
パリの街角にたたずむ娼婦の姿、悪魔やエロスを主題とした作品、聖職者を揶揄(やゆ)する作品をロップスは数多く制作しました。社会の暗部をえぐり出し白昼のもとにさらそうとしたその過激ともいえる制作の背景にあったものは、道徳や宗教をふりかざし「神」の名のもとに偽善者的生活に甘んじる当時の聖職者たちやブルジョワたちへの反逆でした。悪魔的な欲望もまた、人間に生来そなわった根源的なるものではないのか。ここに生涯に渡って彼が持ち続けたテーマがあります。
この展覧会は版画、素描、油彩がなど130余点による日本で初めての本格的な回顧展です。これまでほとんど知られていなかった風景画家としての側面や、優れた版画家としての側面もご紹介する機会となるでしょう。ぜひご覧下さい。