セーヌ河の河口であり、英仏海峡に面するフランス北部ノルマンディーは現在もフランスで最も人気のある保養地の一つです。19世紀初頭、この地に残っていた古い町並みや遺跡は、「ピクチャレスクな(絵になる)」光景として、英仏のロマン主義の画家たちに度々取り上げられるようになります。自然の中でモティーフと直接対峙し、そこで得られた感興を重要視して絵画制作に取り組む姿勢は、後の写実主義や印象派に受け継がれていきます。ノルマンディー地方に生まれ、主な活動の場とした画家ウジェーヌ・ブーダンは、このような風景画の展開に重要な役割を果たしました。コローやクールベ、そしてモネといった画家たちは彼を高く評価し、共に制作を行いました。
また当時、パリからノルマンディーへと向かう鉄道が開通すると、都市部からのアクセスが容易となり、海水浴という新しいレジャーが発達します。近代化の波は、港の様子をも様変わりさせました。同時代的で新しい絵画モティーフを求めた画家たちは、風光明媚な自然風景のみならず、このような近代化の様相をも描きました。
本展では、19世紀初頭から20世紀中頃までを中心に、フランス近代風景画の展開におけるノルマンディーの役割についてご紹介いたします。