江戸時代に九州の肥前国、現在の佐賀県有田やその周辺で生産された磁器のうつわは、伊万里港から全国へ向けて積み出され、それらは肥前磁器と呼ばれています。
山本正之氏の収集による肥前磁器は、1997年に当館へ御寄贈を賜りました。これまでコレクションの一部を1998年、2000年の二度に亘って公開いたしました。今回は、その中から、初期伊万里染付、柿右衛門手色絵磁器、鍋島、染錦手伊万里、後期伊万里大皿などの優品を選び、これに未公開の作品をくわえて展示いたします。 これらは、江戸時代初期の1610年代に焼かれた初期伊万里から、幕末の19世紀初頭に流行した染付大皿におよぶもので、そのもっとも優れた作品は17世紀後半に焼かれました。最盛期の柿右衛門手の色絵磁器は主に海外へ輸出され、色鍋島と言われる色絵磁器は国内の限られた市場で、それぞれ愛好されきた肥前磁器です。海外で調度品として室内を飾った輸出磁器、国内で生活の器物として、広く用いられた肥前磁器など、変化
に富んだ焼物であえることが、その特徴と言えます。収集することは、そのコレクターの人生を映すような作品が集まることのように思えます。山本氏は、長年タイル業に携わる傍ら陶磁器、ことに伊万里焼といわれる肥前磁器をこつこつと収集なさい
ました。「研究するためだから、気になる作品は買いました」と静かに話されておりました。いまここに展示される作品が収集された、昭和30年代から40年代は、浮世絵とならんで海外でも研究者の多い日本の美術品であった肥前磁器でした。多くの人びとが名品を求めていた時代でもありました。そのなかで、コレクターとしての山本氏は「誰に見せるためではなかった」といわれましたが、いくつかの古典的な名品の収集家として高い評価を受けていたのでした。穏やかな雰囲気をもつ作品の数々を、お楽しみいただきたく存じます。