日本の現代写真史に深くその名を刻む写真家・濱谷浩(1915~1999)。15歳でカメラを手にして以来、70年近くの歳月を費やし独自の写真哲学を築いてきた濱谷は、アジア人として初めてマグナム・フォトの寄稿写真家となり、また写真界での多大な功績を称えるハッセルブラッド国際写真賞を受賞するなど、国際的にも高い評価を得てきました。その作品は、対象に寄り添いつつも常に客観的態度に貫かれ、ときに鋭いメッセージを私たちに投げかけます。
本展は、東京で生まれ育った濱谷浩が、新潟の豪雪地帯を訪れたことをきっかけに、民俗学的見地から地方風俗を記録していくことに力を傾けた<雪国>、厳しい自然環境下で逞しく生きる人々の姿を日本海側の農漁村の風景のなかに捉えた<裏日本>といった代表的シリーズをはじめ、戦後日本の都市と地方にみる光と影を写した作品群や、安保闘争を取材した<怒りと悲しみの記録>など、その活動前半期にあたる1930年代から60年代の仕事に注目しご紹介するものです。やがてグローバルな活動を展開することとなる写真家が、いかにして独自の姿勢を確立していったのか―モダン都市・東京の様相をスナップした初期作品や、各界の著名文化人らの魅力溢れるポートレイト・シリーズ<學藝諸家>を含む全200点の作品によって、その出発点から転換期までを辿ります。