大友良英は、即興音楽からポピュラー音楽、さらに映画やテレビの劇伴音楽まで、幅広い音楽の領域で活動する音楽家です。その一方で、美術館やギャラリーなどでの展覧会への参加や、インスタレーション作品を制作するなど、美術の領域での発表も数多く行なっています。
この展覧会は、2008年に山口情報芸術センター [YCAM]で委嘱制作された作品《quartets》と、本展のための新作サウンド・インスタレーション《guitar solos 1》で構成されます。
テーマは「音楽と美術のあいだ」です。異なる芸術表現である「音楽」と「美術」は、制度も作法も独自の発展を遂げて現在に至っています。それゆえ、音楽の活動の場と美術の活動の場は、制作においても、市場においても、異なるシステムの上で動いているといえます。作り手と受け手の関係、作品の流通、作品の提示方法など、それぞれの場面でさまざまな相違があります。
そのなかで、1960年代以降、音楽と美術が相互に介入し合うような表現が多くみられるようになり、そこで生まれた表現は「インターメディア」、「パフォーマンス」、「サウンド・アート」などと呼ばれてきました。その後、さまざまなメディアを利用できる環境が整うことによって、メディア・アートや「領域横断的」と称される各種表現が生まれました。こうした表現は、従来の芸術ジャンルの定義や解釈を拡げたと同時に、それらのあいだにあった境界線をあいまいにしました。それこそが、まさに大友のように「音楽と美術のあいだ」で活動するアーティストの表現を可能にしてきたのだといえるでしょう。
この展覧会では、いまいちど、「音楽」と「美術」という異なる表現の相違に目を向け、それらの制度の「あいだ」にあるものとはなにかを、複数のインスタレーションとさまざまなイヴェントによって考えます。