俵 有作〔1932~2004〕は古玩具・古民具の収集家であり、何冊もの研究書を上梓した古玩具研究者としての一面と共に、水墨を基調としたドローイング作品を描き続けた作家です。
広島県尾道市に生まれた俵は高校時代、洋画家小林和作に師事し、俵有作の画号を得ます。上京してからは民藝の収集、紹介にたずさわりながら独学で絵を描き続けます。そうした彼の作品は芹沢銈介や猪熊弦一郎らに愛され、1990年前後から制作された墨と淡彩による作品は、あるものは書を想起させ、またあるものは山水画、そして仏画をイメージさせる独自の表現へと昇華していきます。
レオナルド・ダ・ヴィンチを慕い、南宋山水画に遊び、
アンリ・ミショーを想う…。
墨と紙が織りなす働きを微妙な筆致で操り、静かなる観念世界を現出させる、現代には稀有な美術家であると言えましょう。
練馬区石神井に長年暮らした、ゆかりの作家ではあるものの、国内よりむしろ海外で高い人気と評価を得ており、今回の展示も米国・インディアナポリス美術館、ヒューストンのアジア・ソサエティを巡回しての凱旋展であると同時に、国内の美術館では初めての展覧会となります。