1914年9月、三人の美術学生によって、60ページたらずの冊子が世に送り出されました。田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎、それぞれが刻んだ木版画と彼らの詩をまとめた「詩と版画の雑誌」、『月映(つくはえ)』です。
大正初期、文芸誌『白樺』などで日本でも紹介されるようになっていた西欧美術の動向、とりわけムンクやカンディンスキーによる版画とゴッホの作品、そして未来派からの敏感な受容の様相を呈しつつ、病に苛まれ文字通り命を刻むようにして木版画の制作を続けた田中恭吉(1892~1915)、田中の存在に触発されて美しい友情を交わしながら生と死について深く内省した作品を生み出した藤森静雄(1891~1943)、日本で最も早い抽象表現へと進んだ恩地孝四郎(1891~1955)により、『月映』は近代美術史においても稀有な珠玉の作品集となりました。
この展覧会は、『月映』刊行100年となるのを記念して、その内容をあらためて見直そうとするものです。1915年11月の第7号まで約200部ずつ刊行された公刊『月映』を全冊展示するのはもちろん、洛陽堂から出版するのとは別に三人だけが持ち合い、現在では1部しか残されていない「私輯『月映』」と呼ばれる私家版や、油彩画、ペン画など貴重な関連作品も多数展示します。