19世紀末から20世紀前半にかけて、版画技術の発達にともなって、挿絵本、豪華本が盛んに制作されるようになります。とりわけ、20世紀以降は、ピカソやマティス、シャガールなど多くの画家たちが、表現手段として版画に取り組むようになり、彼らは、カーンワイラーやボラール、スキラなどの有能な画商や出版者たちの協力のもとで、優れた挿絵本を数多く発表しました。その動きにともなって、版画工房も発達し、ますます画家の挿絵本は隆盛をきわめます。また、イタリア未来派やロシア・アヴァンギャルドの作家たちは、装丁や文字組みなどに奇妙で斬新な感覚を盛り込んだ数々の本を制作しました。戦後になると、このような動きに加えて、本という形式やあり方、メディアとしての特性に立脚して芸術家が制作する本、いわゆるアーティスツ・ブックスが出現します。そこでは、概念的な作品や、物質性にこだわった作品、記録としての意味を追求した作品など、多様な成果が生まれています。そこから、これまでの本というもののあり方を解体し、新しい可能性を見出すことができるのかも知れません。本展では、ピカソ、シャガール、ダリなどの挿絵本や、20世紀初頭のアヴァンギャルドたちが生み出した本から、20世紀後半のアーティスツ・ブックスをめぐる動きを振り返ります。本が美術の今日的な表現手段として、これまでになく注目されるようになった20世紀以降の、アーティストと本とのかかわりをご覧頂きたいと思います。